生麦事件旧跡
生麦事件旧跡
1.生麦事件とは
幕末期の外国人襲撃・殺害事件のひとつ。文久2年8月21日（1862年9月14日）午後、旧東海道沿いの武蔵国橘樹郡生麦村（現横浜市鶴見区生麦）付近において発生、後の薩英戦争の発端となる事件。
京都に向けて江戸を出発した薩摩藩主島津茂久（忠義）の父・島津久光の行列と、横浜からやってきた騎馬のイギリス人一行４人が交錯。これに対し、供頭の奈良原喜左衛門ら数名の藩士がイギリス人一行に斬りかかった。
イギリス人一行は、上海在住の商人チャールズ・レノックス・リチャードソン、横浜在住の生糸商人マーシャル、その義姉で香港在住イギリス商人の妻ボローデル婦人、ハード商会勤務のクラークの、男性３名・女性１名。被害状況は、リチャードソンが死亡、マーシャル、クラークが重傷、ボローデル婦人は無傷であった。
往時、外国人遊歩区域は開港場から10里（約40Km）、神奈川の場合は概ね多摩川以南・酒匂川以東、三浦半島南端を除く範囲内であれば自由に外出できた。言うまでもなく、主要街道である旧東海道がその範囲を貫き、異なる文明の衝突する伏線があった。
事件に関連する史跡を、生麦事件史跡地図に整理した。
2-A.生麦事件碑（首都高速道路・横浜環状北線工事のため仮移設中、2-B参照）
国道15号線沿い、キリンビール横浜工場正門の東京寄り。最寄り駅の京浜急行生麦駅から徒歩10分ほどに位置する。以前は民家に囲まれていたが、現在は碑のみ取り残されているが、横浜環状北線道路工事のためのようだ。今後どうなるかを知らない。
事件碑は１名が落命したところ、案内は次のように記されている。
生麦事件の碑
昭和六十三年十一月一日登録
朝廷は幕府に攘夷断行を求め、江戸に赴く大原勅使の護衛として／薩摩の島津久光が同行し、その帰途、文久二年八月二十一日（西暦／一八六ニ年九月十四日）午後二時、行列を横切ろうとしたイギリス／人一行を生麦で殺傷しました。この事件を土地に因んで生麦事件と／いい、薩英戦争の契機となりました。
明治十六年、鶴見の人、黒川荘三が中村敬宇の撰文を得てイギリ／ス商人リチャードソン落命の地に、遭難の碑を私費で建立したもの／です。
（碑文）
舊蹟（この部分横書き）
文久二年壬戌八月二十一日英国人力査遜／殞命干此處乃鶴見人黒川荘三所有之地也／荘三乞余誌其事因為之歌々日／君流血兮此海■我邦変進亦其源強藩起兮／王室振耳目新兮唱民権擾々生死疇知聞萬／国有史君名傳我今作歌勒貞珉君其含笑干／九原
明治十六年十二月 敬字中村正直 撰
（原文は縦書き、／は改行、■は土偏に需、英文は省略）
案内の下に「生麦事件参考館（2014/5/3より休館中）」の地図が掲示されている。個人資料館、予約制、興味あれば事前連絡のこと。未訪問につき、内容は承知しない。
なお、負傷者２名はアメリカ領事館に逃げ込んだ。神奈川宿にあった各国領事館は、生麦から近い順にオランダ（長延寺跡）、イギリス（浄滝寺）、フランス（甚行寺）、アメリカ（本覚寺）が存在していたと思われる。なぜ、事件現場から一番遠いアメリカ領事館だったのか。
2-B.生麦事件碑（仮移設中の状態）
キリンビール横浜工場正門より、旧東海道を東京寄りに250mほど離れた地点に移設されている。
3.生麦事件発生現場
発生現場は、事件碑から旧東海道を東京寄りに１Kmほど進んだところ。最寄り駅の京浜急行生麦駅から徒歩10分ほど。民家の塀に説明が取り付けてあるが、事件碑から東京方面に向かうならば左側に注意して進むこと。
案内は、次のように記されている。
生麦事件発生現場
文久二年八月二十一日辛未晴天
島津三郎様御上り異人／四人内女壱人横浜■来／リ本宮町勘左衛門前ニ／而行逢下馬不致候哉異／人被切付直ニ跡へ逃去／候処追被欠老人松原ニ／而即死外三人ハ神奈川／へ疵之儘逃去候ニ付御／役人様方桐屋へ御出当／村役人一同桐屋へ詰ル／右異人死骸は外異人大／勢来リ引取申候
生麦村名主
関口日記ヨリ
平成十一年一月
生麦事件参考館設置
（原文は縦書き、／は改行、■は与から下の横棒を除いた字）
説明の大意は「島津三郎（久光）上洛の一行が生麦付近に差し掛かったところ、女性一名を含む四人の外人が騎馬のまま行列と交錯した。下馬せず無礼と家来が抜刀、切りつけた。逃げるところを追いかけ一名を松原（事件碑の辺り）で止めを刺したが、三名は神奈川に逃げ去った。遺体は大勢の外人が引き取りにきた」でしょう。
説明末尾に「生麦事件参考館設置」とある。個人の努力により、近代日本を震撼させた歴史現場を知ることができることに感謝の意を表したい。
4.落命したリチャードソン墓
落命したリチャードソンの墓は、横浜山手の外人墓地の元町側通用門に向って右の道を20mほど進んだ道路側にある。最寄り駅はJR石川町駅、徒歩15分ほど。墓地内には入れないがフェンス越しに見られる。 < /p>
リチャードソン墓の後ろの碑に「近代国家発祥の発端となった／生麦事件犠牲者の？」と刻まれています。時代背景、日本の慣習に通じない外人などの要因が絡んで発生した事件のようです。しかし、新しい国家の胎動期には避けて通れない出来事だったかも知れません。たまたま英国人リチャードソンが犠牲になったということのようです。
5.生麦事件旧跡を辿る（制作中）
事件に関連する史跡見学するために、生麦事件史跡巡り地図を整理したので参照されたい。
6.参考文献
(1) 横浜市歴史博物館編集「生麦事件と横浜の村々」：横浜市ふるさと歴史財団・2012年7月28日発行
(2010年1月20日制作、2015年4月24日改訂)